AIラブストーリー『東京、再生ボタンの恋』1/7話 「再生できないMD」

AIに気ままに書かせてみた

登場人物

  • 瀬尾真琴……神保町の出版社で働く39歳。きちんとして見えるのに、昔のレシートや映画の半券を捨てられない。
  • 藤代遼……下北沢で中古レコード店を営む40歳。無口なくせに、音楽の話になると急に少年みたいな目をする。
  • 篠原紗英……真琴の高校時代からの親友で、代々木上原在住のWebデザイナー、39歳。さっぱりしていて、弱っている時ほど人にやさしい。
  • 橘航平……三軒茶屋で小さなバーをやっている41歳。誰かの話を否定せずに聞ける、貴重な大人。
  • 水沢菜月……中目黒を拠点に活動するフォトグラファー38歳。自由そうに見えて、いちばん昔に縛られている。
  • 佐伯柊司……真琴の上司で編集長、42歳。静かな人だが、静かな人ほど大事な場面で強い。

三月の終わり、神保町の空は、まだ春を信用していないみたいに薄く曇っていた。

瀬尾真琴は昼休みに、会社の裏手にある古本屋へ逃げるように入った。締切明けの午後は、決まって活字より紙の匂いに慰められたくなる。平台の端に積まれたエッセイ集を一冊抜くと、ぱら、と何かが落ちた。拾い上げると、それは透明のケースに入ったMDだった。ラベルには、青い油性ペンでたったひと言、**“Tokyo”**とだけ書いてある。

「まだあったんだ、MD」

思わず声に出した瞬間、背後から笑いを含んだ低い声がした。

「その言い方、もう絶滅危惧種みたいだな」

振り返ると、そこにいたのは藤代遼だった。少し伸びた髪、黒いジャケット、昔より疲れた顔をしているのに、目だけは大学時代のまま。真琴の心臓は、懐かしさと気まずさと、説明のつかない熱で一拍遅れた。

「……遼」 「久しぶり。神保町、まだ歩くんだ」 「そっちこそ」 「今日は仕入れ。レコードじゃ食えないから、最近は本にも手を出してる」

その軽口に救われる。真琴はMDを見せた。

「これ、再生したいんだけど、うちもう機械ないんだよね」 「うちにある」 「え?」 「店に。変な店だろ、中古レコード屋なのにMDデッキ置いてある」

下北沢の店まで来るか、と遼は言った。断る理由はいくらでもあるのに、断らない理由はひとつしかなかった。
そのひとつが、真琴にはまだ十分すぎるほど強かった。

夕方、井の頭線のホームは制服の高校生と、少し疲れた大人たちで混んでいた。車内広告の色味や吊り革の揺れさえ、あの頃と少しずつ変わっているのに、窓ガラスに映る自分が昔よりずっと大人なことだけは、どうしても慣れない。

遼の店は下北沢駅から少し歩いた、古着屋とカレー屋に挟まれた細い階段の二階にあった。入口には手書きで**“RE:PLAY”**と書かれた看板。店の隅には本当にMDデッキがあり、その隣にカセット、CDラジカセ、古いiPodまで並んでいた。

「タイムスリップ感すごいね」 「褒めてる?」 「半分は」

MDを入れる。少しの無音のあと、ざらついた街の音が流れた。電車の発車メロディ、人の笑い声、風に鳴る何かの金属音。やがて、若い女の声がした。

『――二〇〇四年、六月。東京、くもり。』

真琴は息を止めた。
それは、大学時代の自分の声だった。

さらに続いて、遼の声が重なる。

『これ、十年後に聴いたら笑えるかな』 『二十年後でも、たぶん笑えるよ』

その先には、仲間たちの声。紗英の甲高い笑い声、航平の「腹減った」、菜月の「ちょっと待って今すごい夕焼け」。そして少し遅れて、柊司のまだ若い声まで入っていた。六人で作っていた自主制作の街録音。東京の音を集めて、作品にしようとしていた、あの頃の空気がそのまま閉じ込められていた。

真琴は思わず笑った。次の瞬間、泣きそうになった。

「これ……残ってたんだ」 「神保町の古本に挟まって戻ってくるって、東京らしいよな」 「東京って、たまに意地悪だよね」 「いや、たぶん優しい」

遼はそう言って、カウンター越しに真琴を見る。その目に映る自分が、二十歳のままではないことを真琴は知っている。それでもその視線は、ずっと前に置いてきた何かを、静かに再生し始めていた。

MDは最後に、小さなノイズとともに途切れた。
沈黙のなかで、店の外を通る人の足音が聴こえる。

「あのさ」と遼が言った。
「これ、データに起こしてみない? 六人分、集めてさ。あの頃の東京、今の東京、ちゃんと並べてみたい」

真琴は窓の外を見た。暮れかけた下北沢の空に、広告看板のネオンがにじみ始めている。
昔は未来だと思っていた年齢に、自分たちはもういる。

「いいよ」と彼女は答えた。
「でも六人、ちゃんと集まるかな」 「集まるよ。東京って、遠くなるのは簡単だけど、会おうと思えば会える街だから」

その夜、帰宅しても真琴の耳には、MDのざらついた音が残っていた。
スマホのサブスクでは絶対に鳴らない音。
少し不格好で、少し遠回りで、でも確かに手で触れた記憶の音だった。

そして彼女は、ベッドに寝転んだまま思った。
もしかすると恋は、始まるものじゃなくて、再生されるものなのかもしれない、と。

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