AIサスペンス『雪の終駅』3/7話 「狩勝峠、停まったままの夜」

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登場人物

  • 朝倉慎吾……札幌の地方紙記者
  • 冬森梓……道警の刑事
  • 遠野紗英……小樽でバーを営む女
  • 小野寺泰造……新得に暮らす元駅長
  • 鳥羽颯太……失踪した姉を二十年探している除雪車運転手

新得へ向かう特急の窓外には、凍った畑と防風林が、紙芝居みたいに黙って流れていった。
朝倉は向かいに座る冬森を見た。この女はたぶん、泣くより先に報告書を書く種類の人間だろうと思っていたが、車窓を見る横顔には、意外と古い傷の気配があった。

「あなた、どうしてこの件に食いつくんです」 「殺しが一件起きたからです」 「それだけじゃないでしょう」 「刑事に私情を期待しないでください」 「記者は私情で飯を食うんです」

冬森は少しだけ口元をゆるめた。
「じゃあひとつだけ。うちの父が、二十年前この失踪を担当してました。退職まで、結局あの件だけは酒の席でも話さなかった」

小野寺の家は、町はずれの古い官舎を改装したもので、玄関先には除雪の跡が几帳面に残っていた。電話口の震えた老人を想像していた朝倉は、出てきた男の眼が思いのほか澄んでいるのに驚いた。老いとは視力ではなく、諦めの濃さなのだろう。

「話しますよ」

茶を出す前に、小野寺はそう言った。
「もう雪の下に隠しておく歳でもない」

二十年前の三月。夜行の臨時列車が狩勝越えの吹雪で新得に足止めされた。ホームは地吹雪で先が見えず、客たちは車内で苛立っていた。
そのとき、小野寺は、二人の女がデッキから降りるのを見た。ひとりは鳥羽雪乃。もうひとりが遠野紗英。そして少し遅れて、黒い外套の男が続いた。男は十勝選出の道議、黒木敬介。女遊びと金の噂には事欠かぬ男だった。

「ホームの端で、三人が揉めていた。風が強くて声は聞こえん。ただ、赤い鞄を取り合っていた」 「そのあと?」 「悲鳴がひとつ。ほんの一瞬、雪が切れてな。雪乃さんが線路脇の斜面へ落ちていくのが見えた」

小野寺が駆けつけたとき、そこにいたのは紗英だけだった。黒木は鞄を抱えて立ち尽くし、紗英は真っ青な顔で震えていた。
黒木は小野寺に言った。――事故だ。余計なことを言えば、駅もおまえも終わるぞ。
ほどなくして警察が来たが、正式な事情聴取では「吹雪で視界不良、転落を確認した者なし」とされた。雪融けを待って捜索したが、遺体は出なかった。

「なぜ、いままで黙って」 朝倉が問うと、小野寺は自嘲するように笑った。 「駅長なんてのはね、列車を定刻で出すのが仕事だ。人の一生まで遅らせちゃいかんと思っていたが、あの夜だけは逆だった。みんなの人生を、あそこで停めてしまった」

冬森が写真を見せると、小野寺は目を細めた。
「切り取られたところに写っているのは、黒木だろう」 「でも黒木敬介は十年前に病死しています」 「そうか。なら、死人が二度目の乗車をしたわけだ」

その言い回しに、朝倉はぞくりとした。
死んだはずの男。消えた女。口を閉ざした老人。
そして帰り際、小野寺は朝倉の袖をつかみ、囁くように言った。

「お父さんは、あの夜のあと黒木と会っていた。あんたの親父さんも、雪に足を取られたひとりだ」

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